名将対決を制した明徳義塾の馬淵監督には一つのこだわりがあるという。「僅差が予想される試合は、じゃんけんに勝ったら後攻を選ぶ」。延長戦になると先攻か後攻かで精神面が大きく違う。まさに十五回の攻防がそうだった。
十五回を1人で投げ抜いたエースの岸は最後に2死満塁のピンチを迎えたが「楽しんで投げられた」。裏の攻撃が残っているので思い切ることができた。無失点で切り抜けると、逆に1死満塁のチャンスをつかみ、打席は3打席続けて安打を放っていた森。その重圧が相手投手の手元を狂わせ、暴投でのサヨナラ勝ちをつかんだ。
馬淵監督は敵将の高嶋監督とは普段から一緒に食事をするなど親交が深い。ただ、甲子園では2002年夏以来の直接対決。「試合中は互いに顔を合わせないようにしていた」と振り返るが、相手の表情をうかがった場面もある。1点を勝ち越された十二回。直後に1死一、三塁のチャンスをつくった。「先生の雰囲気を見たら、適時打で同点は仕方がないという感じだった」。それならばと、スクイズのサインを出して見事に成功。甲子園で培ってきた手腕も存分にみせた。
甲子園通算43勝目を挙げた馬淵監督は「忘れられない1勝になった。明徳の大きな財産になる」と強調。敵将にかける言葉を問われると「スクイズ、すいません」と思わず舌を出した。(丸山和郎)