ああ、困った。楽天のドラフト1位ルーキー松井裕樹投手(18)=桐光学園=が13日のオリックス戦(京セラドーム)に先発し5回2安打無失点&4奪三振の快投。オープン戦3試合に登板し計12イニング無失点の無敵ぶりに、星野仙一監督(67)は開幕ローテーション入りを明言したが、注目はデビューの舞台だ。今季開幕の3月28日・西武戦(西武ドーム)か、4月1日にコボスタ宮城で行われる本拠地開幕のオリックス戦か、二者択一となる可能性が極めて高いが、周囲のさまざまな思惑が交錯し実に悩ましい限り。闘将の決断は、いかに。 (宮脇広久)
「寂しいけどな、本当は。高校生なんか使いたくねえと、キャンプのときは思っていた」
試合後、星野監督は、そう言って顔をしかめてみせた。が、本音は別だろう。「ここまでのボールを投げるとは、いい意味で意外だった。(開幕ローテに)入ってくるわな。それも上の方で」とニンマリ笑顔で認めた。
この日、ネット裏で偵察した巨人・森中スコアラーは「星野さんのことですから、開幕か、本拠地開幕のどちらかでしょう」と予想する。
昨季も公式戦開幕と日本シリーズ第1戦の先発に新人の則本を指名した指揮官。球界屈指のエンターテイナーは、松井裕の初舞台を、どこに設定するつもりなのか。
営業的には本拠地開幕戦先発に話題の18歳を据え、観客動員面で“ロケットダッシュ”を狙うのが普通だろう。
だが、公式戦開幕戦の相手、西武の白鳥スコアラーは「ウチの打者は事前に映像を見せたとしても、あの腕の振りの速さ、縦に割れるスライダーの切れに戸惑うと思う」と警戒する一方で、こうも分析した。
「本拠地開幕戦なら、登板前にコボスタ宮城のマウンドで思う存分練習することができるでしょうが、開幕戦となると、未経験の西武ドームのマウンドに、ほぼぶっつけで上がることになる。今日も初めての京セラドームのマウンドで、立ち上がりは制球を乱していました。投手はそういうところには敏感ですよ」
確かに、登板日前日の限られた時間しか感触を確かめられない不慣れななビジターのマウンドより、満を持して本拠地のマウンドでスタートを切った方が得策に思える。昨季15勝を挙げた則本に2年連続の開幕を任せ、エースの自覚を促す効果も生まれそうだ。
だが松井裕が晴れて公式戦開幕投手となれば、高卒新人では1956年の東映(現日本ハム)・牧野伸以来、実に58年ぶり。いきなりレジェンドの仲間入りで、インパクトはハンパではない。
実に悩ましい状況の中で、地元宮城県の盛り上がりもすごい。昨季日本一の効果もあって、敵地の試合では異例となる開幕西武戦の地上波生中継(県内ローカル)が決まっている。相手の開幕投手は、伊原監督が宮城県仙台市生まれで地元・東北学院大出身の岸を指名済み。それだけに地元メディア関係者の間には「松井裕と地元出身の岸の対決となれば、敵地とはいえ仙台が燃える」との待望論もある。
困った顔の星野監督は「(登板日は)おれが決めるわけにはいかない」とはぐらかす一方で「今のような投球をしていたら、開幕投手というのも冗談ではなくなってくる」と思わせぶり。
指揮官が開幕投手の決定権を委ねる佐藤義則投手コーチは、父・義美さんが91歳で死去したことをうけ北海道・奥尻島の実家に帰省中。14日にもチームに合流する予定だが、チーム、周辺各所の思惑が交錯する難しい決断をどう下すのか。
開幕まであと2週間。ゴールデンルーキーの初登板をめぐっては、まだ一波乱ありそうだが、何ともゼイタクな悩みだ。