「負けはしたけど、ドラゴンズらしい試合展開に入っていけたと思う。こういう試合を取っていかないと」
中日・谷繁兼任監督(43)の初陣となった広島との開幕戦。2―3で迎えた延長十回、監督自らの三振で試合が終わったものの、チームには4位に低迷した昨年とは一味違った雰囲気があった。
六回2死一、二塁で中前に今季初安打を放った指揮官は、二塁走者の平田が本塁で憤死すると、一塁ベースを駆け抜けたところで跳びはねて悔しさをあらわに。開幕投手に指名し、6回2失点と力投していた38歳ベテランの川上をスパッと交代させたかと思えば、2番手にはなんと先発要員の岡田を投入し、開幕戦から勝利にこだわる姿勢を見せた。
■実戦経験、勝負勘は12球団一
さる中日OBがこう言った。
「攻撃時の采配は森ヘッドに任せるみたいなことを言っていたが、実際はそんなふうではなかった。例えば、1番・大島が4度出塁した際の2番・荒木へのサインです。1打席目、3打席目は犠打、4打席目は一転して強攻策に出て、荒木が安打を放って好機を広げた。4打席目は広島の投手が前田から中田に代わった直後。5打席目には今度は大島を走らせた。投手出身の森ヘッドではなく、谷繁監督自らのバリエーションに富んだ采配だったと思う。谷繁本人が<ボクの野球は動く野球であり、テーブルの上で計算できるほど野球は甘くない>と言ってた。その通り、状況判断を優先した。高卒1年目からマスクをかぶって26年目。実戦経験、勝負勘という意味では12球団の監督で一番と言っていい」
実はマスクをかぶっているときも、内野の守備位置はもちろん、外野手へもその配球によって細かな指示を伝えるサインがあるらしい、とこのOBは見ているのだが、これまでは、ベンチの監督なりコーチなりの指示を仰いでいたものが、すべて自分の判断でできるのは兼任監督の利点。二塁手の荒木も「監督がグラウンドで直接見て、指示が出る方がスムーズだし、守っている方も迷いがない」と言っている。
「気迫が出ていた? それはボクが感じるより、皆さんがどう感じたかじゃないですか」
そう言って少し表情を崩した谷繁監督。今後の戦いが、セのペナントレースの少ない見どころのひとつになることは間違いない。