八重樫が右フックを顔面にたたき込むと、サレタはマットに崩れ落ち10カウント。「たまたま当たっただけ。すごく崩しにくかった」。序盤は長い射程と独特のリズムを持つメキシカンに距離を支配されたが、ボディーからリズムをつかみ9回に勝負を決めた。
難しかったのは気持ちの作り方だ。次戦に控えるのは、39戦無敗の怪物ローマン・ゴンサレスとのビッグマッチ。周囲は「強い勝ち方」を求め、松本トレーナーも「“ロマゴン”に向けた練習試合だ」とハッパをかけた。数日後、八重樫は「目の前の試合に集中したい」と伝えてきた。サレタに倒され負ける夢を見たのだという。「アマチュアの頃、先を見て足元をすくわれたことがあるから」と油断を戒め、3度目の防衛を果たした。
試合後、リングに上がってきたゴンサレスに抱擁で祝福された。「きょうは力が入ってしまった。楽勝だとか言われるより、どっちが勝つか分からない状況の方がいい。次はやりますよ、死にものぐるいで」。31歳の王者の前に心躍る道が開けた。(宝田将志)