田中将大は、もう何年もメジャーリーグでプレーしているかのようだった。
いや、こう言っては失礼か。何年も楽天のエースナンバーを背負ってチームを引っ張ってきたのだから。
注目された4月4日のブルージェイズ戦での初登板、私が印象的だったのは、次のふたつ。
・打たれた後も、淡々としていること。
・試合途中で柔軟に配球を変えるなど、「適応力」の高さを見せたこと。
私のメジャーリーグでの取材経験で、日本人投手たちから口々に言われたのは次の言葉だった。
「ホームランを打たれた後の、次の打者の1球目。これが大事。とんでもないところにボールがいくようだと、精神面をコントロールできていない証拠。気持ちが切り換わっていれば、普通にストライクを投げられる」
田中は初回、いきなり先頭打者のカブレラにホームランを打たれ、精神面での変化があったはずだ。
しかし、次の打者のラスマスへの初球は、外角へのフォーシーム(ストレート)で、これが質の高い球だった。ラスマスはこれをひっかけて内野ゴロ。
最初のホームランを引きずることなく、自分の投球を心掛けたところに田中の「成熟した投手」の証拠を見た。
また、この内野ゴロではベースカバーが必要になったが、一塁方向にすぐに走りだし、ホームランのショックはなく、試合に集中していることがうかがわれた。
打たれても、気にしない。
これがメジャーで成功する秘訣でもある。
そしてもう一点、3回途中からリズムをつかみ、4回、5回と三者凡退に取ったあたり、田中の配球の変化も見逃せなかった。
試合後のインタビューで、
「最初は変化球が多かったんですが、途中からストレートを中心に組み立てて、それが良かったと思います」
と答えている。
メジャーリーグでは、ブルペンで多くの球数を投げることが出来ないから、その日のフィーリングにピタリと来る球を見つけられない。
黒田博樹の場合は、「1回に持ち球を試してみて、感覚のよかった球を中心に組み立てていきます」と言うほどだから、1回は手探りの状態なのだ。
田中の場合、変化球が多くなった理由はなにか?
捕手のブライアン・マッキャンが要求したからだ。
おそらく、マッキャンの頭の中にはオープン戦を通じて田中の変化球、スライダー、カーブ、スプリットの質が素晴らしく、「これで組み立てていける」という手ごたえがあったはずだ。しかし、スライダーが甘く入るなど、序盤は制球力に難を抱えていた。
この日の正解は、「フォーシーム」だった。